⑤ そのころ、中国人をのせた輸送列車が花岡にむかって走ってい、ました。この列車には、296人の中国人が乗っています。
この人たちは、昭和17年日本政府決定による「華人労務者内地移入に関する件」にもとづいて、日本につれてこられて働かされることになったのです。この人たちの大部分は農民だそうです。
この列車は何を運んでいるか外からは見えないように窓もなく、ふたをしめたままのものです。なかはまっくらで、くさいにおいがぷんぷんします。列車のなかはぎっしりつめこまれているので身動きもできず、空気もはいってきません。
わずかなすき間から空気がはいってくる。
「おれにもすわしてくれ。」
「おれにも」
「おれにも」
しかし、ある人は
「水をくれ。苦しい。助けてくれ。」
と、さけびながら、ちっそくして死んでいったのです。
「おれたち どこさ行くべなあ。」
「帰りたいなあ。」
と、ぶつぶつ言っている声がかすかに聞こえてくる。