華人労務者内地移入ニ関スル件
一九四二(昭和十七)年十一月二十七日 閣議決定

第一  方針
 内地ニ於ケル労務需給ハ愈々遍迫オ来シ特ニ重筋労働部面ニ於ケル労力不足ノ 著シキ現状ニ鑑ミ左記要領ニ依リ華人労務者ヲ内地ニ移入シ以テ大東亜共栄圏  建設ノ遂行ニ協力セシメントス
第二  要領
 一、本方策に依リ内地ニ移入スル華人労務者ハ之ヲ国民動員計画産業中鉱業、  荷役業、国防土木建築業及其ノ他ノ工場雑役ニ使用スルコトトスルモ差当リ重要  ナル鉱山、荷役及工場雑役ニ限ルコト
 二、移入スル華人労務者ハ主トシテ華北ノ労務者ヲ以テ充ツルモ事情ニ依リ其ノ他  ノ地域ヨリモ移入シ得ルコト 但シ緊急要員ニ付テハ成ル可ク現地ニ於テ使用中  ノ同種労務者竝ニ訓練セル元俘虜、元帰順兵ニシテ素質優良ナル者ヲ移入スル  方途ヲモ考慮スルコト
 三、移入スル華人労務者ノ募集又ハ斡旋ハ華北労工協会ヲシテ新民会其ノ他現地  帰還 トノ連繋ノ下ニ之ニ当タラシムコト
 四、移入スル華人ハ年齢概 ネ四十歳以下の男子ニシテ心身健全ナル者を選抜ス  ルコトトシ家族ヲ同伴セシメザルコト
 五、華人労務者及其ノ指導者ハ移入ニ先立チ一定期間現地ノ適当ナル機関ニ於  テ必要ナル訓練ヲ為スコト
 六、華人労務者ノ使用を認ムル事業場ハ華人労務者ノ相当数ヲ集団的ニ就労セシ  ムルコトヲ条件トシ関係庁協議ノ上之を選定スルコト 但シ華人労務者ヲ供給業  者ニ取扱ハシムルコトハ原則トシテ認メザルコト
 七、華人労務者ノ契約期間ハ原則トシテ二年トシ同一人を継続使用スル場合ニ於  テハ二年経過後適当ノ時期ニ於テ希望に依リ一時帰国セシムルコト
 八、華人労務者ノ管理ニ関シテハ華人ノ慣習ニ急激ナル変化ヲ来サザル如ク特ニ  留意スルコト
 九、華人労務者ノ食事ハ米食トセズ華人労務者ノ通常食ヲ給スルモノトシ之ガ食料  ノ手当ニ付テハ内地ニ於テ特別ノ措置を講ズルコト
 十、労務者ノ所得ハ支那現地ニ於テ通常支払ハルベキ賃金ヲ標準トシ残留家族ニ  対スル送金ヲモ考慮シテ之ヲ定ムルコト
 十一、華人労務者ノ移入ノ時期、因数、輸送、防疫、防諜、登録其ノ他移入ニ必要  ナル具体的細目ニ付テハ関係庁協議ノ上決定スルコト
 十二、華人労務者ノ家族送金及持帰金ニ付ハ原則トシテ特別ノ制限を付セザルコ  トトシ本方策ノ実施に依リ日支間国際収支ニ重大ナル影響ヲ及ボスベキ場合ニハ  可能ナル範囲ニ於テ内地ヨリ支那向適当ナル裏付物資の給付に付考慮スルコト
第三  措置
 本方策ノ実施ニ当リテハ之ガ成否ノ影響大ナルベキニ鑑ミ別ニ定ムル要領に依リ 試験的ニ之ヲ行ヒ其ノ成績ニ依リ漸次本方策ノ全面的実施ニ移ルモノトスルコト
 備 考
  支那ニ於ケル技術労務者不足ノ現況ニ鑑ミ本方策ノ実施ニ関連シ別途華人青少  年労務者ノ内地工場ニ於ケル使用ヲ認メ之ガ使用ニ付特ニ技術的訓練ニ意ヲ用  ヒ将来支那ニ於ケル期間労務者タルベキ者ヲ養成スル措置ニ付テモ併セ考
慮ス  ルコト


  「花岡事件50周年記念誌」(国立国会図書館所蔵GHQ・LS文書より転載)